はじめに
「品質」とは、一体何を指すのでしょうか?
「単に不具合がないこと」「正常に動作すること」、それだけで品質は本当に十分でしょうか?
この問いは、開発や製造に関わるすべての人が一度は立ち止まって考えるべきテーマです。
本コラムでは、「本当の品質」とは何かを、様々な視点から掘り下げていきます。
「誰のための品質か?」「何を守るのか?」という視点の重要性
品質を考えるとき、私たちはつい「内部基準を満たすこと」や「仕様通りに動くこと」ばかりに目を向けがちです。しかし、品質は本来、「誰のために」「何を守るのか?」という視点を欠かしてはなりません。
依頼主(クライアント)は、自社のビジネス成功を支える品質を求めています。
同時に、エンドユーザーの使いやすさや信頼性、運用・保守担当者の利便性も重要です。
こうした多様な期待に応えるために参考となるのが、ISO/IEC 25010:2011で定義されている2つの品質モデルです。
■製品品質モデル
このモデルでは、ソフトウェアそのものの構造的な品質を評価するために、以下の8つの特性が定義されています。
- 機能適合性:必要な機能が実装されており、正しく動くか
- 性能効率:システムが限られたリソース(時間、メモリなど)で効率的に動作するか
- 互換性:異なる環境やシステムと適切に連携できるか
- 使用性:ユーザーが直感的に操作でき、学習しやすいか
- 信頼性:システムが安定して動作し、障害が発生しにくいか
- セキュリティ:不正アクセスやデータ漏洩を防ぐための対策が施されているか
- 保守性:システムの修正や更新が容易に行えるか
- 移植性:異なる環境やプラットフォームへ容易に移行できるか

これらの特性により、単に動くかどうかだけでなく、「どれだけ使いやすく、安全で、将来的に維持しやすいか」といった視点からも、製品の完成度を測ることができます。
■利用時の品質モデル
さらに、実際にソフトウェアを使うユーザーの体験を評価するためのモデルが、「利用時の品質モデル」です。こちらは以下の5つの観点から構成されています。
- 有効性:ユーザーが目的を達成するために、ソフトウェアが適切に機能するか
- 効率性:少ない労力や時間で、ユーザーがスムーズに操作できるか
- 満足性:ユーザーが使いやすさや快適さを感じ、満足できるか
- リスク回避性:ソフトウェアの利用による安全性やリスク管理が適切に行われているか
- 利用状況網羅性:さまざまな環境や条件下で、ソフトウェアが適切に動作するか

これらの特性により、ユーザーはソフトウェアを快適に活用でき、その価値を最大限に実感できます。
さらに、「誰のために?」とともに「何を守るか?」という視点も重要です。
品質が損なわれれば、ユーザーの信頼、システムの安定性、企業のブランド価値といった、守るべきものが失われてしまいます。
つまり、「依頼主」「エンドユーザー」「運用担当者」など、さまざまな関係者のニーズや期待をバランスよく考慮し、同時に守るべき価値に目を向けなければ、真に価値ある品質を実現することはできないのです。
当社の品質向上への取り組み
当社では、「本当の品質とは何か?」を常に問い直しながら、品質向上活動に取り組んでいます。その中でも特に重視しているのが、W字モデルに基づく開発プロセスです。
W字モデルとは、開発工程において、設計と同時並行でテスト設計・品質評価を進めていくアプローチです。これにより、上流工程での品質作り込みを強化し、後戻りのコストを最小限に抑えます。
加えて当社では、経験ベースの「探索的テスト」や「エラー推測」も積極的に取り入れています。 これは、現場の経験や直感を活かしながら、柔軟かつ効果的に不具合を見つけ出すアプローチです。こうした対応が可能なのは、当社が30年以上にわたりソフトウェア開発に携わってきた豊富な経験と実績があるからです。
さらに、開発フェーズでは以下の施策を取り入れています。
- シフトレフトアプローチの採用
┗「早期テスト」の原則に則り、テストの活動をより上流段階から開始。
これにより設計と同時にテスト仕様を策定し、上流から品質を確保することが出来る。 - ユーザー視点を取り入れた受入テストの強化
┗単にテストをするだけでなくユーザー視点で操作性・使い勝手を追求する。
また、業務運用・ビジネス観点から洗い出したユースケースで、充実したシナリオテストを実施する。
これらの取り組みによって、ただ「不具合を減らす」だけでなく、「誰にとっても使いやすく、満足度の高いプロダクト」を目指しています。
まとめ
「本当の品質」とは単に「問題がない」ことではありません。
本当の品質とは、関わるすべての人たちの期待を正しく理解し、それを超えて応えることだと、私たちは考えます。
そのためには、製品やシステムそのものだけでなく、「使う人」「支える人」「届ける人」すべての視点を意識する必要があります。そして、開発の早い段階から品質を作り込む仕組みが不可欠です。
これからも当社は、「誰のための品質か?」「何を守るのか?」という原点に立ち返りながら、真の意味で価値ある品質を追求し続けます。
ここまで5回にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました。
ソフトウェアテストサイトに関する知識を、少しでもお届けできていれば嬉しく思います。